Moser, Kross et al 2017: 3人称を用いることで,ネガティブ感情が低減する

Moser, J. S., Dougherty, A., Mattson, W. I., Katz, B., Moran, T. P., Guevarra, D., … & Kross, E. (2017). Third-person self-talk facilitates emotion regulation without engaging cognitive control: Converging evidence from ERP and fMRI. Scientific Reports.

3人称で (自分の名前を使って) ネガティブ感情,状況を捉えることは,(1人称 (i.e., 「わたしは…」)を用いる場合と比較して,) 感情制御方略となりえること,そしてその方略に必要な努力 (資源) は少ない可能性を示した。

 

【intro】
(想定1) これまで,自分の「名前」を内省introspectionに使う方が,1人称 (I) を使うより,ストレス下の感情,行動制御に適していることが示されてきている [4-6: Kross et al 2017]

(想定2) 基本的に日常生活の中では,他者を参照するときに,「名前」を使う。これを拡張すれば,他者について考えることと,「名前」を使うことは結びついていると考えられる。自分自身を参照 (あるいは言及:自分について考える,自分自身と対話するくらいの意味あい) するために。自分の「名前」を使うことは,自分を他者のように捉えること,つまり,客観視を促すのではないか? (i.e., 感情生起状況において,その状況を自分自身が体験している差し迫ったものという感じではなく,他者が体験しているもののように感じる…ような意味あい)
→これらを踏まえ,感情喚起課題中の「名前」(i.e., 3人称) を用いた自己対話が,ネガティブ感情制御に寄与するか検討を行った

【実験1:EEG】
・IAPS画像を見るときに1人称 (i.e., “…ask yourself ‘what am I feeling right now?’”),
あるいは3人称 (i.e., “…ask yourself ‘what is [participant’s name] feeling right now?”) を用いて考えるように教示した
・実験の結果,Late LPP (感情反応の指標) に差異が認められた (3人称 < 1人称)
・SPN (認知的統制過程の指標) については,主効果,交互作用ともにnsであった:
→これらを踏まえると,3人称でネガティブ感情,あるいは刺激を捉えることは,非努力的に,ネガティブ感情を低減すると考えられる

【実験2:fMRI】
・参加者の過去のネガティブ感情体験を想起させる単語を提示し,そのときに,3人称,あるいは1人称を用いるように教示した (基本的な流れは実験1と類似)
・主観的なネガティブ感情:3人称 < 1人称
・ROI (left medial prefrontal cortex/anterior cingulate cortex) の賦活:3人称 < 1人称
※扁桃体の賦活に差異は認められなかったとのこと (cf., discussion)

 

本研究の結果を踏まえ,著者らは,アブストに,
these results suggest that third-person self-talk may constitute a relatively effortless form of self-control.
と記し,まとめている。