Netzer et al 2015: 対人的感情制御は,快楽原則ではなく,自分の目的によって左右される

Netzer, L., Van Kleef, G. A., & Tamir, M. (2015). Interpersonal instrumental emotion regulation. Journal of Experimental Social Psychology, 58, 124-135

 

これまで他者の感情制御 (i.e., 対人的感情制御) については,他者の感情をよりポジティブなものにするために行われるという想定で考えられることが少なくなかった。
この研究では,確かにそういうことももちろんあるけれど,そうではなくって,自分の目的のために,他者をネガティブにしたりする対人的感情制御もなされうるんだよ,ということを明らかにしている。

Introduction

・近年,他者の感情の制御 (i.e., 対人的感情制御: Interpersonal Emotion Regulation: IER) に注目が集まっている
・Hedonic interpersonal emotion regulation: 一般的な考え方。他者の感情をよりポジティブな方向に調整する対人的感情制御。
e.g., 悲しんでいる友人の気持ちを慰める
・Instrumental interpersonal emotion regulation:本研究の着眼点。自分の目的に応じて対人的感情制御の方向性 (i.e., ポジティブにするか,ネガティブにするか) を判断する。
e.g., 友人の怒りが自分の利益につながると考え,友人の怒り感情を煽る

→本研究は,3つの実験を行い,対人的感情制御が,自分の目的・動機に影響されるかどうか検討を行うことを目的とした。

Study1

実験1では,ペア (サクラ) のFPSゲームの成績によって,報酬が変化すると教示した。
具体的には,パートナー条件では,ペアが好成績であるほど (i.e., 敵を倒すほど) 報酬が多くなると教示し,ライバル条件では,ペアが好成績であるほど,報酬が少なくなると教示した。
その後,参加者にはペアに感情を喚起する刺激を提示する (i.e., 対人的感情制御) 機会を与えた。
刺激は怒り感情を喚起するものと,ニュートラル感情を喚起するものを用意した。
もし,怒りがFPSゲーム成績を高めることに寄与すると考えられるのであれば,パートナー条件では,ペアに対して怒り感情喚起刺激を提示すると考えられる。
一方で,ライバルに対しては,FPSゲームの成績を低下させるために,ニュートラル刺激の提示を行うと考えられる。

【Method】
▼参加者: 女性64名
▼手続き
1,パートナー条件 OR ライバル条件に割り当てられる (※1)
2,FPSゲームに臨むペアに提示する音楽と文章を選択する (※2) …指標A
3,選択後,ペアをどのような感情にしたいと考えたかを評定 …指標B
4,怒り (いらだち,恐怖,不安) が,ペアがゲームで好成績を修めるためにどの程度重要だと考えたかを評定 (※3)

※1 パートナー条件では,ペアが好成績であるほど (i.e., 敵を倒すほど) 報酬が多くなると教示し,一方で,ライバル条件では,ペアが好成績であるほど,報酬が少なくなると教示した

※2 音楽と文章は,怒り OR ニュートラル 感情を喚起するもののいずれかを選択するように求めた
・怒り音楽の例: Refuse/Resist by Apocalyptica and The Decaying Process by Michael Andrew
・ニュートラル音楽の例: Treefingers by Radiohead and First Thing by Four Tet

※3 この手続きで重要なのは,ペアに対して,怒り OR ニュートラル刺激のいずれを提示しようと考えたか (指標A),そしてペアを怒り感情状態にしたいと考えたか (指標B),の2点である。しかし,その判断には,怒りが好成績をペアが修めるのに重要だと考えているかどうかが関与していると思われる。そのため,手続き (4) が必要になっている。

【Results】
・(指標B): ペアに怒り感情を感じてほしいと考えた程度 = パートナー条件 > ライバル条件
・Fig1 (指標A): パートナー条件では,(ペアのFPSゲーム成績を高めるために) ペアに怒り喚起刺激を提示することが多く,ライバル条件では,(ペアのゲーム成績を低下させるために) ニュートラル刺激が提示されることが多かった。
・Fig2 (指標A): 怒りを感じることが,ゲームで好成績を修めるために重要だと考えたものほど,パートナー条件では,怒り喚起刺激を提示することを選んだ。一方で,ライバル条件では,好成績にならないようにするために,怒り感情を喚起する刺激は選ばれにくかった。

【Discussion】
結果をざっくりまとめると,
・ペアの成績が高いほど,自分の報酬も大きくなるパートナー条件では,ペアの成績を高めるために,怒り感情を促す行動がとられる
・ペアの成績が低いほど,自分の報酬も大きくなるパートナー条件では,ペアの成績を低めるために,ニュートラル感情を促す行動がとられる
→もし,対人的感情制御が,基本的に他者の感情をよりポジティブなものにするため (i.e., 快楽原則) になされるのであれば,パートナー条件でも,ニュートラル感情が促進されると考えられる
→しかし,実際は,パートナー条件では,怒り感情を高めるような対人的感情制御が行われた (※感情喚起刺激の提示が対人的感情制御といえるのか? という手続き的な話は横に置いておく)
→これらを踏まえると,対人的感情制御は,自分の目標・動機によって大きく左右されると考えられる

Study2

実験1の手続きを少し変更,追加し,実験1の再現を行うことを目的とした。
実験の結果,実験1と同様の結果が認められた。

▼変更点
・怒りだけでなく,恐怖も喚起できるようにした (※怒りと恐怖は感情価と覚醒度の点では類似しているが,機能の点で異なる。つまり,怒りはFPSゲーム成績を高めうるが,恐怖はそうではない)
・実験1,手続き (3) について,ペアだけでなく,自分をどのような感情状態にしたいかも測定

Study3

これまではネガティブ感情に焦点を当てていたため,ポジティブ感情に焦点を当てた。
実験の結果,実験1,2と同様に,自分の目的に応じて,他者の感情を制御しようとすることが示された。
具体的には,ペアに怒り感情を感じさせることで,自分の報酬が大きくなる場合には,怒りを高めるような刺激を提示することが多く,
ペアに喜びを感じさせることで,自分の報酬が大きくなる場合には,喜びを高めるような刺激を提示することが多くなった。

General Discussion

これまでの対人的感情制御研究では,基本的に,他者の感情をポジティブにすることが考えられてきた。
しかし,本研究によって,自分の目的のために,他者をネガティブにすることもあるのだということが明らかになった。

▼Limitation
・実際の交流がなされていない
・この研究では感情喚起刺激の選択が対人的感情制御と想定されていたため,対人的感情制御のコストが無視されている
→生態学的妥当性の欠如
・今回のペアは,実験的に用意された初対面の他者であり,ある種他人ともいえるような条件設定だった
→ペアとして親密な他者を設定した場合にも,今回のような結果が再現されるかについては疑問が残る

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