Kalokerinos et al 2017: 感情制御の時系列変化に関する検討

Kalokerinos, E. K., Résibois, M., Verduyn, P., & Kuppens, P. (2017). The temporal deployment of emotion regulation strategies during negative emotional episodes. Emotion, 17, 450-458.

【目的】

Grossの感情制御のプロセスモデルでは,感情の生起段階に対応した感情制御が想定されている: 状況選択→状況調整→注意配分→認知変容→反応調整
しかし,これまでの感情制御研究では,基本的に,いずれかの段階の感情制御方略「のみ」を取り上げ,検討が行われてきた (e.g., 認知的再評価がネガティブ感情の低減に及ぼす影響の検討)。
また,感情制御について時系列的に検討した研究はほとんどなされてこなかった。
※脳波 (ERP) 研究では,いくつか時系列的な検討がなされているものの,ほぼ検討されてきていない (らしい)

そこで,本研究では,感情の継時的変化をintensity profile approach & 経験サンプリング法を用いて調査する。その上で,感情制御の時系列的変化 ,特に,いつ感情制御が行われ始めるのか? そして,いつ行われる感情制御がネガティブ感情の低減に有効か? を検討することを目的とする

【方法】

・参加者:74名 (Amazon’s Mechanical Turkより)
・経験サンプリング:午後7時に送信
→ネガティブ感情の持続時間
→ネガティブ感情の強度の時系列的変化 (intensity profile approach)
→感情の強度の時系列を3分割し,区分ごとの感情制御の実施傾向
※測定した感情制御は以下の通り:situation modification (“I took steps to change the situation”), 認知的再評価 (“I changed my perspective or the way I was thinking about the event”), 気晴らし (“I distracted myself from the event or my emotions”), 反芻 (“I ruminated or dwelled on the event or my emotions”), and 表出抑制 (“I suppressed the outward expression of my emotions”).

【結果 & 考察】

・ネガティブ感情の持続時間:M=2h51min, 中央値=1h25min, 最頻値=2h (range = 10sec-24h)
・各感情制御の利用傾向:Reappraisal (11.4%), distraction (15.6%), rumination (20.8%), suppression (19.4%), Situation modification (1.5%)

・各感情制御はどのタイミングで行われやすいか? (Fig2,Tab1)
→認知的再評価,気晴らしは感情生起から時間が経過したときに行われやすい
→反すうと表出抑制は感情生起直後に行われやすい

・感情は時間経過とともに弱くなるのか?
→感情の強度の時系列を3分割したとき,後ろの区分に行くにつれて,ネガティブ感情は低減していた (i.e., 感情制御方略を考慮しない場合,基本的に,ネガティブ感情は時間経過とともに弱くなっていく (と感じられている))

・各感情制御はネガティブ感情を弱めるのか? (γの値が正: ネガティブ感情を強める)
→reappraisal, γ=-38.87, SE=7.23, p<.001, distraction, γ=-25.45, SE=5.89, p<.001, and rumination, γ=52.80, SE=5.38, p<.001, situation modification, γ=17.66, SE=17.59, p=.316, suppression, γ=10.92, SE=5.98, p=.0687

・各感情制御のネガティブ感情への影響は,時系列によって変化するか? (Tab2)
→状況調整,気晴らし,表出抑制については感情制御が行われたタイミングによってネガティブ感情への影響は異ならなかった
→認知的再評価は,感情が生起してから後になればなるほど,ネガティブ感情の緩和効果が弱くなる (Sheppesの研究結果と一致)
→反すうは,感情が生起してから後になればなるほど,ネガティブ感情の強度の強い正の関連を持つようになる
→しかし,相関を検討しているにすぎないため,特に認知的再評価,反すうについて,ネガティブ感情が強いと再評価が難しくなる,あるいは反すうが生じやすくなるとも解釈できうるので注意が必要。

Comment: いくつか方法に関して気になるところがないわけではないし,これでGrossのプロセスモデルの時系列性を検討できているわけではないが,そうした感情制御の時系列的側面を実際に検証している点において重要な文献だと思われる。


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