Ford, Gross & Gruber 2019: Emotion Polyregulation の提案

Ford, Q., Gross, J., & Gruber, J. (2019).
Broadening Our Field of View: The Role of Emotion Polyregulation. 

【掲載紙】Emotion Review, 11, 197–208.
【論文URL】https://doi.org/10.1177/1754073919850314


ここ数十年で,感情制御 (Emotion Regulation) に関する研究がとても発展してきています。
しかし,これまでの研究の多くは,感情を「1つの」の方略で制御することを検討してきました (e.g., 失敗体験をポジティブに捉え直すことで,後悔を緩和する)。
ただ,よくよく現実場面の感情制御を考えてみると,感情を「1つ以上の (複数の)」方略で制御することも少なくないことに思い至るかと思われます。
この論文では,そういった組み合わせ的な (or 複合的な, 複雑な, ) 感情制御のプロセスPolyregulation (注1) とし,その概念の理論的説明と先行研究 (←あまり多くはない) から見えてくることが紹介されています。

(注1) Polyregulationのちょうど良い感じの説明がまだ思いついていません。誤解を生まないために,先に書いておくと,Polyregulationの概念には感情制御方略の組み合わせだけでなく,複数のゴール (感情制御の目的) の表象なども含まれます。なお,Polyregulationは,”polypharmacy” という語から着想を得ているようです。

Polyregulation とは…?

連名にGrossの名前が入っているように,Polyregulationにおいても,Grossのプロセスモデル (注2,注3) を前提にしています。
ものすごく簡略化して,プロセスモデルを説明してしまうと,
感情制御は,
1: 感情 (or 状況) の認識,理解 (e.g., 上司の無茶振りに怒りが生じている)
2: 感情制御のゴールの設定 (e.g., 怒りの表出を抑えよう)
3: 感情制御方略の選択 (e.g., 表出抑制をしよう)
4: 感情制御方略の実施 (e.g., 表出抑制!)
→ 4の実施後の感情 (or 状況) の理解が1となり,ぐるぐると続いていく
というプロセスを経るよね,という感じです。

従来のプロセスモデル (i.e., Not-Polyregulation) では,上記プロセスモデルにおいて,単一のゴール,単一の方略の選択・実施が想定されていました。
たとえば,上のプロセスモデルの説明のときに (e.g., ) と示したような感じです。

しかし,Polyregulationでは,複数のゴール,複数の方略の選択・実施を想定します (→ Figure 2)。
たとえば,上のプロセスモデルの説明のときの例を借りれば次のようなものです。
1: 複数の感情 (or 状況) の認識,理解 (e.g., 上司の無茶振りに怒りが生じている (注4))
2: 複数の感情制御のゴールの設定 (e.g., 怒りを抑えよう + 怒りを緩和しよう )
3: 複数の感情制御方略の選択 (e.g., 表出抑制 + 再評価をしよう)
4: 複数の感情制御方略の実施 (e.g., 表出抑制 + 再評価!)

こうした複雑な感情制御のプロセスをFordらは,Polyregulationと呼称し,研究を進めることで,より実際的な感情制御の理解を目指せるのでは… (かなり意訳) といったことが,この論文では提案されています。

(注2) Grossのプロセスモデルのざっくりと説明したスライド 【link
(注3) より具体的には,Gross (2015) のThe extended process model of emotion regulationを前提にしています。
(注4) ここでは簡略化のために,感情 (or 状況) の認識,理解は「単一」にしましたが,ここが「複数」になることも論文内では言及されています (→ mixed emotional episode)。

PolyregulationについてのQ&A

【Q1】Who Uses Polyregulation?

A. ほとんど全ての人がPolyregulationをしていると考えている
→根拠として,経験サンプリングを用いた研究などが引用されている。


【Q2】When Is Polyregulation Used?

A. 先行研究では,強度の強い感情喚起刺激に直面したとき or 強いネガティブ感情が喚起されたときに,Polyregulation (特に複数の感情制御方略の実施) をしやすいことが報告されている
→ただし,先行研究がそもそもあまく多くない点に留意が必要。


【Q3】Is Polyregulation Effective?

A. 先行研究は不一致
→Aldao & Nolen-Hoeksema (2013): ネガティブ感情喚起映像提示後に,複数の感情制御方略を用いた者は単一の方略を用いた者よりネガティブ感情が強い
→Heiy & Cheavens (2014): (実施された感情制御方略の数は予測しなかったものの) 参加者が効果があると思った上で実施された感情制御方略の数が多いほど,感情は良好になる


【Q4】Is Polyregulation Adaptive?

A. Polyregulationが適応的かどうかはかなり複雑な話 (Figure 3)
→Q2,Q3も関係してくる
→Polyregulationの目的が適応的かどうかには,文脈を考慮する必要がある (→Ford & Troy 2019 【過去の投稿】)

個人的な感想

Polyyregulationの概念は,Ford自身も論文内で書いているように,実際的な感情制御を理解していく上でとても重要だと思います。
僕が想定し,検討している「distraction→reappraisalの順序効果」もこの枠組みで考えられることもあり,発展性がかなりある提案ではないかと感じています。
一方で,(最後の方に提案してくれてはいるものの) Polyregulationを研究するパラダイムに限界があるため,研究していくのはとても難しいのではないでしょうか。
とはいえ,従来的な感情制御研究は飽和しているような空気感があるのも事実なので,少しずつ研究が増えていくと思っています。

また,Ford自身が書いているわけではないですが,(おそらくは) 従来的な単一の感情制御 (e.g., 再評価,気晴らし) に関する研究が淘汰されたり,無価値になったりすることもないように思います。
そもそもPolyregulationがこれまでの研究の積み重ねに基づいて提唱されていますし,介入方法などを考えようと思うと,Polyregulationは複雑すぎる感があるためです。

この論文とここ最近出版されている感情制御のreviewを読んで,いくつか研究計画が思い浮かんだので,近いうちに実験をできればいいなぁと思っています。
以上,ここまで読んでくださり,ありがとうございました。何かありましたら,ご連絡いただけますと幸いです。

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