日本語版Body Perception Questionnaire (BPQ) の紹介と説明

感情心理学研究に掲載されていた日本語版BPQについての論文が,嬉しいことに優秀論文賞に選ばれました。せっかくの機会なので,前々から作成しようと思っていた尺度の紹介ページを作ってみました。
研究を進める上で,少しでも参考になれば幸いです。

※本年度の日本心理学会にて,論文の内容をベースにしたポスター発表を行う予定です。まだ論文化などできていないデータについても連番で発表しますので,そちらでも質問などしていただければと思っています。

【もくじ】

  1. BPQ関連のリンク
  2. BPQとは?
  3. 日本語版BPQ-BA超短縮版マニュアル
  4. raw data (準備中)
  5. さいごに

1. BPQ関連のリンク

・Dr. Porges研究室のBPQ紹介ページ: https://www.stephenporges.com/body-scales
・BPQ manual (by Porges研究室): https://www.stephenporges.com/s/BPQ_Information_and_Scoring_v2_091518.pdf
・英語版BPQ-BA超短縮版論文: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6877116/
・日本語版BPQ-BA超短縮版論文: https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsre/28/2/28_20-002/_article/-char/ja

2. BPQとは?

Body Perception Questionnaire (BPQ) は,Dr. Porgesにより1993年に作成された尺度です。より厳密にはBPQ (原版) は,内受容感覚に関する項目だけでなく,以下の5つの下位尺度122項目から構成される尺度となっております。今回の紹介では,内受容感覚に関わる「Body Awareness (BA) 下位尺度」と「Autonomic Reactivity下位尺度」にのみ言及し,残り3下位尺度については触れません (詳しくないため)。

・Body Awareness (BA) 下位尺度
・Autonomic Reactivity下位尺度
・Stress Response 下位尺度
・Stress Style 下位尺度
・Health History 下位尺度

BPQ (原版) のBody Awareness下位尺度や,Autonomic Reactivity下位尺度は自律神経系に関する知見や理論をベースに項目が考案されており,先行研究 (e.g., Critchley et al., 2004) でもちょくちょく使用されていました。しかし,BPQ (原版) では,因子構造や信頼性,妥当性の検討などがなされていませんでした。また,Body Awareness下位尺度だけみても45項目と項目数が非常に多いという留意点もありました。

これらを踏まえて,Cabrera et al. (2018) では,BPQのBody Awareness下位尺度とAutonomic Reactivity下位尺度の「短縮版」が作成され,因子構造や信頼性,妥当性の検討が行われました。この研究以降,Body Awareness,Autonomic Reactivity下位尺度ともに,「原版」ではなく「短縮版」を使用することが推奨されるようになりました (cf., BPQ manual p7)。

私たちの研究に関わる重要な点として,Cabrera et al. (2018) ではBody Awareness下位尺度の (短縮版から項目をさらに厳選し) 超短縮版 (very short form) も作成がなされました。Cabrera et al. (2018) のsupplementの情報に基づけば,内受容感覚研究ではその個人差を測定するために,Body Awareness下位尺度が使用されることが最も多く,Autonomic Reactivity下位尺度がそれに続くようでした。この使用頻度などを理由に,私たちの研究グループでは,BPQのbody Awareness 下位尺度の翻訳,および信頼性・妥当性検討を進めることにしました。(最近は,Autonomic Reactivity下位尺度が使用されることも増えるのかなと思うようになりました。)

3. 日本語版BPQ-BA超短縮版マニュアル

<出典>
小林亮太・本多樹・町澤まろ・市川奈穂・中尾敬 (2021) 日本語版Body Perception Questionnaire-Body Awareness (BPQ-BA) 超短縮版の作成 ―因子構造,および信頼性,妥当性の検討― 感情心理学研究, 28, 38-48. 【link】【Appendix

<尺度名>
・正式名称: 日本語版Body Perception Questionnaire-Body Awareness超短縮版
・略称: 日本語版BPQ-BA超短縮版
・英語表記: the Japanese version of the Body Perception Questionnaire-Body Awareness Very Short Form (BPQ-BAVSF-J)
※以下では,必要のない限り単に「BPQ-BA」と表記する。

<測定概念>
内受容感覚の気づきを測定する尺度である。他の内受容感覚の個人差尺度と比較すると,ネガティブ感情と結びついた内受容感覚への気づきに焦点を当てているという特徴がある。

<適用範囲>
因子構造や信頼性,妥当性の検討は大学生 (サンプル2) と一般成人 (20歳~70歳: サンプル1, 3, 4) を対象に実施している。高校生以下に適用できるかは2021年7月現在では未検討である (原版や他言語版についても小林の知る限り未検討)。

<尺度翻訳手続き>
日本語と英語のバイリンガルである研究者1名が日本語に順翻訳したうえで,同等のバイリンガル研究者1名が逆翻訳を行い,英語版と項目内容が等しいか確認を行った。同義でないと判断された項目
については修正を行い,最終的に上記2名で各項目の翻訳が適切であるか確認し,日本語版BPQ-BA超短縮版を作成した 。
・翻訳元論文: Cabrera, A., Kolacz, J., Pailhez, G., Bulbena‐Cabre, A., Bulbena, A., & Porges, S. W. (2018). Assessing body awareness and autonomic reactivity: Factor structure and psychometric properties of the Body Perception Questionnaire‐Short Form (BPQ‐SF). International journal of methods in psychiatric research27(2), e1596. 【link

<因子構造>
12項目1因子構造で一定水準の適合度が確認されている (研究1のCFA: χ2(54)= 136.006, p<.001, CFI=.932, RMSEA=.072, SRMR=.047)。

<信頼性>
・ω=.87-.88 (サンプル1~4)
・再検査信頼性 (1か月間隔, N=68): .75 (95%CI=.62-.83)

<妥当性> (研究1と2で得られた相関の最小値と最大値を記載)
・身体感覚増幅と正の相関: r=.35-.44
・身体的ストレス反応と正の相関: r=.36-.42
・MAIAの気づき下位尺度と正の相関: r=.38-.40
・特性不安と正の相関: r=.24-28
→MAIAの気づき下位尺度と特性不安は無相関: r=-.02-.07
・日本語版BPQ-BA超短縮版と短縮版の相関: r=.97

<項目,教示>
参加者には,「あなたがどれだけ身体の状態に気づいているか想像してください。下記のそれぞれの表現のうち,一番あなたの気づきを正確に表わしているものを選んでください。」と教示したうえで,「様々な場面において,私は●●●に気づいています」という文章を提示し,●●●に各項目を当てはめ,それぞれ回答するように求めた (Appendix 1として質問紙形式のものを掲載しています)。

<採点方法>
日常生活における気づきの程度を(1)全くない,(2)たまに,(3)時々,(4)たいていは,(5)いつも,で尋ねた上で,12項目の合計点 (あるいはその平均値) を利用。
※全くない=0,たまに~いつも=1,とする採点方法も存在するものの (cf., BPQ manual p6),日本語版でもまだ確認できていない (今後検討予定あり)。

<項目の順番について>
私たちの研究時には,項目をランダムに入れ替えて調査を実施している。

<尺度の使用について>
日本語版BPQ-BA超短縮版については,研究・教育目的に限り使用は自由です (商用利用などについては過去に経験がなく判断がつかないので個別にご相談ください)。学部生や修士生含め尺度使用・論文投稿時などに使用許可は不要です。ただ,使用後 (卒論・修論含む) にデータや感想の共有をしていただけると情報の集約や尺度改善に繋がるので,ありがたいです (これも強制/必須ではありません)。もちろん質問その他などあれば,お気軽にお問い合わせください。

<★日本語版BPQ-BA短縮版について>
研究2では,日本語版BPQ-BA超短縮版が,原版と同じ内容を測定できているのか検討するために,(「2. BPQとは?」で述べた理由で) 日本語版BPQ-BA超短縮版と短縮版の関連を検討しています。結果として,両者の間に強い相関 (r=.97) が認められ,他の妥当性検討用尺度との関連も類似した傾向になっています。こうした結果と項目数の少なさを踏まえ,感情心理学研究では,「超短縮版」を作成したという内容を前面に押し出しています。しかし,データは「超短縮版」より少なくなるものの,「短縮版」についても因子構造や信頼性,妥当性がある程度検討されています。そのため,項目数も多くなるため利用機会は相対的に少ないと思われますが,(超短縮版だけでなく) 日本語版BPQ-BA「短縮版」も使用することが可能だ,ということをここに記載しておきます。

※マニュアルの作成については,日本パーソナリティ心理学会の尺度使用マニュアルの形式を参考にさせていただきました。

4. raw data (準備中)

感情心理学研究の中で報告している研究1~3のデータについては,いずれここで公開できればと考えています。ただ研究時にそこまで考えが及ばずに倫理審査などをしていただいているので,何か差し支えがあるかもしれません。そのあたりの確認が取れ次第,公開したいと思います。時間がかかると思いますので,何か必要な情報などあれば,ご連絡ください。

5. さいごに

本ページの内容が何かお役に立てばいいなと思います。基本的な情報は論文とsupplementに書いたつもりですが,ページ数の都合や思い至らなかったために記載のない情報もあるかと思います。そうした場合にはお気軽にお問い合わせいただければと思います (連絡先ページにアドレス載せています)。また,学部生や修士生が使用してくださるケースもあるかと思いますが,上にも書いたように使用許可メールは必要ありません (もちろん質問があればご連絡ください。わかる/できる範囲で支援できればと思っています)。

2021年7月現在では,研究時間や研究費が確保できていないので,ただの空想なのですが,「子どもの内受容感覚の気づき」を測定する尺度作成にも取り組みたいなと考えています。もし一緒に研究をしてくださる方などいらっしゃいましたら,お声がけいただけると嬉しいなと思っています。