Ford & Troy 2019: 認知的再評価について考え直してみませんか?

Ford & Troy 2019 Reappraisal reconsidered: A closer look at the costs of an acclaimed emotion regulation strategy. Current Directions in Psychological Science 1–9.

認知的再評価は感情制御方略の中で,ネガティブ感情の緩和,および精神的健康の促進という観点では最も有効だと考えられている。ただ,再評価って上手くやるのが難しい状況もあるし,再評価が苦手な人もいる (ReviewⅠ)。その上,現状では再評価をしてネガティブな感情が緩和されれば,適応に繋がるという考えが一般的ではあるけれども,個人特性や状況によっては,ネガティブな感情を低減してしまうことがむしろ不適応的になる可能性があるのではないか (ReviewⅡ) といったことを指摘している。
※基本的な主張はFig2とFig3を見れば概観できるはずです。

すごくざっくり書いてしまうと,再評価って最強の感情制御方略と思われているけれど,さすがにそれは……と主張している論文。ただし,再評価のデメリットを叩きつけて,「再評価はダメだ!」といっているわけではなく,今までは単純化しすぎてきたから,もう少し個人要因や状況要因を考慮しませんか? という感じ。

認知的再評価 (Cognitive Reappraisal)

認知的再評価: 感情の原因や感情そのものなどについて,別の観点から捉えなおすこと
”Reappraisal is a commonly used form of emotion regulation that centers on people’s attempts to reframe how they are thinking about an emotional situation so that they feel better. (冒頭より引用)”
・ネガティブ感情の緩和に有効 (Webb, Miles, & Sheeran, 2012)
・精神的健康を促進する (Aldao, Nolen-Hoeksema, & Schweizer, 2010)

ReviewⅠ 再評価は誰でも,いつでも容易に行えるものなのか?

・先行研究が蓄積される中で,再評価については,誰でも容易に行えるものと考えられてきた
(1) 実験室実験において,再評価を行った者の30~50%の人が再評価によってネガティブ感情の悪化を体験している (Troy et al., 2013; Troy et al., 2010)
(2) 再評価を試みた人の半数近くが再評価を上手くできたかどうかに関する問いに中点以下の回答をしている (Ford et al., 2017)
→ 再評価は誰でも容易に行える方略というわけではない

・先行研究が蓄積される中で,再評価については,いつでも容易に行えるものと考えられてきた
(1) 強い感情喚起刺激に対しては再評価が難しい  (Sheppes, 2014; Sheppes & Meiran, 2007)
(2) 困難な状況 (e.g., living as a visible minority in the United States) では,再評価をすることで抑うつ傾向が増加する
(3) (状況によっては) 再評価は認知資源を (気晴らし以上に) 消費する (Sheppes & Meiran, 2008)
→ 再評価はいつでも容易に行える方略というわけではない

Q.  再評価は誰でも,いつでも容易に行えるものなのか?
A.  再評価は誰でも,いつでも容易に行えるわけではない

ReviewⅡ 再評価が上手くできる = 適応的 といえるのか?

一般的に,再評価を含む感情制御研究では,感情制御が上手くできる→ネガティブ感情が緩和する = 適応的と捉えることが多い。
→ 【A】meta-emotion, 【B】ネガティブ感情の適応的側面からの反論

【A】meta-emotionの観点から
ネガティブな感情がその人のアイデンティティにとって重要である場合,(再評価により) ネガティブ感情が低減することはアイデンティティの脅威となる
→ そうしたアイデンティティが脅かされる状況では,meta-emotion (i.e., emotions or judgments about one’s emotions; e.g., sense of authenticityの低下) が生じる
→ このmeta-emotionによって精神的健康が阻害されるのではないか?
※ただし,この考えについて直接的な検討はなされておらず,論文中でも間接的な証拠に基づいて言及されている

【B】ネガティブ感情の適応的側面から
ネガティブ感情には,単純にネガティブ感情が嫌い,あるいは精神的健康を悪化させるといった不適応的な側面がある
→ 一方で,ネガティブ感情には,その環境に脅威があることを伝えたり,脅威に備えることを動機づけるという適応的な側面もある
→ もし (再評価により) ネガティブ感情が低減されてしまえば,環境を適切に認識できず,あるいは脅威への備えが不十分になり,結果的にむしろ不適応的になる可能性がある
・経済ゲームのときに再評価を行う者は,不公平な提案を受け入れてしまいやすい (Grecucci et al., 2013)
・risk-taking game中に再評価を行うと,リスク志向的意思決定が増大する (Heilman et al., 2010)
・コントロール可能性の高い状況 (i.e., 問題解決をした方がよい状況) では再評価を行うほど,精神的健康が悪化する (Troy et al., 2013)

Q. 再評価が上手くできる = 適応的 といえるのか?
A. 再評価が上手くできる = 適応的 とはいいきれない

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